思考するガム

ミステリ、漫画、時々映画の感想ブログです。自分の好きなものを中心に扱います。

『そして、ユリコは一人になった』貴戸奏太/紹介と感想 悪意に染まった伝説

【2020年・第18回「このミステリーがすごい! 大賞」U-NEXT・カンテレ賞受賞作】【テレビドラマ原作】そして、ユリコは一人になった (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

このミステリーがすごいデンカレ賞受賞作。
作者の貴戸(四季)さんとは作家デビューの告知がある前からTwitter上で交流があり、過去に綾辻行人『緋色の囁き』を薦めていただいたことがあります。こちらが薦めた作品も読んで面白いと言っていただけて嬉しかったです。
作品には『超常現象』『ミステリ』『ほのかな百合』と好きな要素てんこ盛りで、「僕のために書いてくれたのかな?」と本気で思いかけたほどでした笑。楽しめましたよ!

 

 

 

作品紹介

第18回『このミステリーがすごい! 』大賞、U-NEXT・カンテレ賞受賞作! 私立百合ヶ原高校には奇妙な伝説がある。代々、ユリコという名を持つ生徒は「ユリコ様」として絶対的な権力を持ち、彼女に逆らう者には必ず不幸が訪れるという。ただしユリコ様になれるのは一人だけ。ユリコが複数人いた場合、彼女たちにも不幸が起こり、一人だけに淘汰される。図らずもユリコ様候補となった新入生・矢坂百合子は伝説を聞いて戸惑うが、才色兼備の親友・美月になだめられ、単なるオカルトと思い込もうとする。しかしその矢先、ユリコの名を持つ生徒が一人、屋上から転落死した。そして、それを契機としてユリコが次々と殺されていく――。誰が彼女たちを殺したのか、ユリコ様とは何なのか。学校の伝説を隠れ蓑にして、人々の悪意が、恐るべき殺戮劇を繰り広げる!(Amazon紹介文引用)

 

ユリコ様伝説

ユリコという名を持つ生徒には超常的な力が宿り、逆らう者には不幸が訪れる。ただしユリコ様になれるのは一人のみで、ユリコが二人以上いた場合、一人になるまでユリコと名のつく生徒は自然淘汰されていくという、「ダーク版マリみて薔薇さま総選挙」みたいな話。

新入生の百合子は強制的にユリコ様候補となってしまい、事件の渦中に巻き込まれます。親友の美月の「単なるオカルト」という言葉を信じたい百合子でしたが、不可思議な事件が続き、ユリコという名の生徒が屋上から転落します。事件はそれだけで終わることなく、第二の事件が発生。さすがに単なる偶然では片付けられなくなり、二人は捜査に乗り出しました。

文章が平坦で読みやすく、筆力があり一気に読ませます。探偵役を務める美月の行動力も素晴らしく、中だるみすることはありません。作者が影響を受けているであろう『緋色の囁き』で、僕が不満に思っていた「百合展開が見たかったのにぃ」という点をこの作品ではカバーされており、自分のような百合好きには嬉しいところでした。もっとイチャイチャを描いてもよかったんですよ?

この作品の白眉は全校生徒を前にして謎を解きあかすシーンでしょう。絵的にも一番盛り上がるところで、ここだけでドラマ化する価値がありそうです。たった一つの事実から伝説の構図が大きく変わるのは痛快でした。さらに作品はそこから二転三転し、最後には思わぬ着地を見せてくれます。タイトル回収が鮮やかです。読んでいて感じていた違和感が、最終的に回収されたので、安堵と信頼を覚えました。彼女、ちょっとおかしいところ多かったですものね……。現代本格のテーマを上手く扱えていたと思います。

いろいろと参考にした作品はあるかと思いますが、長沢樹の某作品が一番思い起こされました(読んでいるかどうかはわかりませんが)。

 

と、ここまで絶賛調子でしたが、気になる点というか「勿体ない」と感じる点もありました。

 


(ここからネタバレあり)

 


「ユリコ様伝説」が人工的で、その伝説に魅力や怖さを感じられなかった点があげられます。美月以外の登場人物たちが最初から盲信的に「ユリコ様」を信じているように見え、ミステリを成立させるためだけの作中内の設定という感じが出てしまっていました。たとえば『Anotherの現象』『さよなら神様の千里眼』『トリックシリーズの超能力』『島田荘司作品の幻想』など、超常的なものが本当にしろ虚構にしろ、大抵の場合、「疑い」が出発点となります。疑っている人間が超常的な事件に遭遇して初めて「本当にあるのでは……」「恐ろしい」と思い、信じる気持ちが芽生えるのであればいいのですが、今作の場合、口頭で「こういう伝説があってね」と言われたり、ノートを見せられたり、まだ偶然と言えるような事件が発生している段階なのに、過去の事件の事実確認を行う前から話を鵜呑みにしすぎているので、逆に設定が飲み込みづらくなっていました。


もちろん、主人公のそういう性格が、ミステリのあるネタと関わり合っているのでダメとは言えないのですが、最初はもう少し疑念を持たせてほしかったです。「疑念」→「恐怖」→「受容」のプロセスを踏ませてあるだけで作中内設定の説得力は変わっていた気がします。もちろん作者はそのことを重々承知で今の構成にしており、相方の美月に「疑念」の役割を担わせているのだとは思いますが、どれだけ不可解な現象が起きても美月が最初から最後までぶれない名探偵のままであり続けるので、「ユリコ様伝説」が恐ろしいものに見えなかったのは残念でした。

 

あとは構成上仕方ないとはいえ、解決編手前で美月が不可能状況を解いてしまう点は勿体なく感じられました。主人公が事前に人間の手による殺人と知ってしまうので、「ユリコ様伝説」というものの虚構性が強まってしまっています。登場人物達の動機は「ユリコ様伝説」に繋がっています。なので解決編手前までに「ユリコ様伝説は本当なのではないか?」と思えるところまで持っていけていれば、登場人物の動機の説得力は今より増していた気がします。


と、ここまで偉そうなことを言っていますが、デビュー作でこれならオールOKでしょう。ただ過剰な期待を寄せて、あーだこーだ言っているだけなのです。次が楽しみなのは間違いありません。百合サイコー!(発作)

 

まとめ

学園ミステリ好きには一読してほしい作品です。次回作も絶対に読みます。オススメ!