思考するガム

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『巴里マカロンの謎』米澤穂信/紹介と感想 極上のスイーツのような短編集

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

待ちに待った11年ぶりの新作!小市民シリーズの新刊はもう無いのでは、と不安になっていたので無事発売されて嬉しいですね。期待通り、めちゃくちゃ楽しめました。

 

 

 

作品紹介

11年ぶり、シリーズ最新刊!
そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を。
謎に遭遇しがちな小山内さんと、
結局は謎解きに乗り出す小鳩君。
手に手を取って小市民を目指すふたりの高校生が帰ってきました!

「わたしたちはこれから、新しくオープンしたお店、パティスリー・コギ・アネックス・ルリコに行って新作マカロンを食べます」その店のティー&マカロンセットで注文できるマカロンは三種類。しかし小佐内さんの皿には、あるはずのない四つめのマカロンが乗っていた。誰がなぜ四つめのマカロンを置いたのか。それ以前に、四種の中で増えたマカロンはどれか。「ぼくが思うに、これは観察力が鍵になる」小鳩君は早速思考を巡らし始める……。心穏やかで無害で易きに流れる、誰にも迷惑をかけない小市民になるべく互恵関係を結んだあのふたりが帰ってきました! お待ちかねシリーズ11年ぶりの新刊、四編収録の作品集登場。

【収録作】
「巴里マカロンの謎」
「紐育チーズケーキの謎」
「伯林あげぱんの謎」
「花府シュークリームの謎」

 

極上のスイーツのような短編集

小市民を目指そうとする小鳩くんと小佐内さんが日常の中で謎や事件に遭遇するという定番のフォーマットでお話は進みますが、今回は後輩ちゃんの存在が大きな鍵となっています。というのも、シリーズを通して読んでいる人間であれば「後輩ちゃん、早く二人から離れるんだ!(特に小佐内さん)」と心配したくなる構造になっており、緩い雰囲気に見えて、実は底のところではイヤ〜な緊張感が保たれているのが面白いところです。

『巴里マカロンの謎』では、マカロンが一個多く置かれていたという些細な謎から解答に至るまでの手順の面白さが際立っていました。あるブツが登場してからの論理展開が非常に愉快で、犯人特定にすぐいくのではなくホワイダニット中心になるあたりは作者らしいと言えます。最後の犯人特定も、なんとも「らしい」解決だと笑ってしまいました。最後にはダークな余韻があり、これが後々の不穏さに繋がります。

『紐育チーズケーキの謎』は、我らが小佐内さんの活躍を堪能できる一編。後輩ちゃんの文化祭を楽しんでいたところ、小佐内さんがお菓子を台なしにされ、誘拐されてしまいます。完全にもらい事故なわけですが、小佐内さんは逃げていた男子生徒から何かを受け取っており、その何かが現場から消えているので、小鳩くんは推理によって消えたブツを探し出そうとします。どこにあるのかはわかりやすくなっているものの、「一瞬でそんなことを考えたのか!」と小佐内さんの異常性が際立つ話になっており、やはり怖い子だと戦慄せざるを得ません。戦慄したのは読者だけでなく、後輩ちゃんも同じで、尊敬よりも恐れを抱いていました。これが石持作品のキャラクターであれば、なんの疑問も持たず「すごい! わたしとは違う天才だ! すき!」となっていたことでしょう笑。

『伯林あげぱんの謎』は一番好きな短編で、ロシアンルーレットでカラシ入りあげぱんを食べた部員がいるはずなのに、誰も名乗りでないという不可解な状況が発生。小鳩くんが解決に乗り出します。事件の状況を把握すればするほど謎が増していくところがよくできており、食べた犯人はわかっても、そこに至る道筋を思い浮かべるのは相当に困難でしょう。僕は犯人をわかったつもりになっていましたが、いくつもの壁が立ちはだかり、あっさり敗北してしまいました笑。

『花府シュークリームの謎』では、参加していない集まりに参加したと見なされ、後輩ちゃんが停学になってしまいます。そこで二人は、後輩ちゃんのために真相を暴こうするのだが……という小市民シリーズらしからぬ展開へ。これまでの小市民シリーズでは、二人のエゴや自意識を、突き放したタッチで描いており、二人をヒーローのように描くことは一度もありませんでした。しかし今作ではストレートな活躍ぶりを描いていて新鮮でしたね。とはいえ、そこはかとない不穏さは依然残っており、いつ牙を剥くのかと戦々恐々としながら読んでいたのが正直なところ。だって米澤穂信だよ!? 最後まで油断できるわけがないじゃん。

全編を通して後輩ちゃんのやらかしが描かれていて(小佐内さんにべたべたしすぎたり、小佐内さんの妬みの対象になっていたり)、どう転ぶのか油断ならないな、と思いながら読んでいたので、オチにはかなり意表を突かれました。梯子を外されたような驚きです。

 

(ここからネタバレ)

 

ラストで自分は親指を立てたわけですが、小佐内さんのダークな活躍を期待していた人間からすると、ちょっと拍子抜けに思われるかもしれません。しかし、こういう結末を提示したのは大変意義深いことだと思います。ダークだったりグレーだったりで終わることが多いですから、こういうラストは新鮮でありこれからの米澤穂信作品に新鮮な色合いを見出せそうで嬉しかったです。

まぁそういう読み方をしなくても、極上のスイーツを素直に味わってもらいたくてこういう多幸感のあるラストにしたのだと思いますが。

 

あと細かい点ですが、小佐内さんが誘拐された後、小鳩くんが「また?」みたいなリアクションを取っていましたが、時系列的にあの誘拐事件は二年生の時なので、ちょっとおかしくないか、とかそんなことを思いました。

 

まとめ

文句なし。堪能しました。おそらくシリーズ完結編になるであろう、冬季を楽しみに待ちたいと思います。オススメ!

 

 

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 文庫