思考するガム

ミステリ、漫画、時々映画の感想ブログです。自分の好きなものを中心に扱います。

『シャドウ』道尾秀介/紹介と感想 見事な騙し絵

シャドウ (創元推理文庫)

道尾作品を読むのは5冊目。良作だとは思うのですが、本作を読んで自分は「道尾作品の良い読者ではない」と確信してしまいました。これについて後述します。あくまで個人的な好みの問題であり作品の良し悪しとは関係ないので、そこのところは強調しておきますね。良い作品であることは間違いないよ!

 

 

バイアスに支配されているのは誰か

小学生の男の子を主役とした心理サスペンスで、全体的に掴み所のない謎や雰囲気のままラストの種明かしまで一気に突き進みます。
さまざまな人物の視点を切り替えながら進行し(どの登場人物にも裏がありそうな気配が濃厚)、事件の全体像を掴ませない語り口が巧みです。伏線やミスリード、サプライズが大量にあり、どんでん返しミステリとしての面白さは十分でした。

やはり登場人物同士の意外な関係性が見えてくる後半からの展開が素晴らしく、どんでんに次ぐどんでんで頭がクラクラしました。ある程度予想のつく部分もありますが手数が多いので、どこかでは必ず驚けるはずです。全体像の見えなさや多すぎるように感じられるミスリードも、作品のテーマの一つである『確証バイアス』と関係していて、ただ読者を驚かそうとして仕込んだだけの仕掛けとはレベルが違います。精神科という舞台も効果を上げています。

男の子の成長を描くことで陰鬱な物語に光を差すラストも見事でした。

とはいえ、今まで読んできた道尾作品すべてに共通している『書かないことで謎を生み出している』点はやはり今作でも気になりました。

「だいたいどのミステリ作品だってそうだろ」と言われたら確かにその通りなんですけど、道尾作品の謎の作り方って、だいたい叙述トリック的なんですよ。視点人物が知っている『重要な情報』を読者に伏せたまま進行することが多い(なぜならそこを一番のサプライズにしているから)。視点人物は知っていて読者は知らない。そのことで読んでいて強烈な違和感を覚える場面が多いのです。明らかにおかしい展開や情報があっても、視点人物はさらりと受け流して別の行動をします。情報を持っているからでしょう。しかし情報が圧倒的に不足している読者からすれば「なんでおかしな点を無視するの?」「さっきはなんであんな行動をしたの?」というふうに、違和感ばかりが先行するのです。その違和感を解消するために読み進めたいと思う読者も多いでしょうが、僕の場合は「作中みんな怪しくて信用できないのに、語り手まで信用できないのか…」と思い、どうでもよくなってしまいます。さらに道尾作品では、「語り手が情報を伏せている」ことを読者に対して隠さないのもモヤモヤポイントで、「また叙述トリック的に後から情報を開示するのね」と早い段階からわかってしまい、話に乗れないことが多いです。
情報を共有するからこそ語り手に感情移入し、謎を一緒に追いかけたいと思うわけですが、道尾作品でそう思えることはほぼありませんでした。語り手が情報を伏せてばかりいるからです。叙述トリックがそんなに好きではない(嫌いではないです)、というのもあり、やはり自分は道尾作品の良い読者にはなれなかったなぁ、と本作を読んでしみじみ思いましたよ。懲りずにまた読みますけど。今のところ『向日葵の咲かない夏』がベストですね。

 

まとめ

なぜ道尾作品にノれないのかを書きましたが、好みの問題でしかありません。よくできた作品であることに間違いはないでしょう。本格ミステリ大賞を獲った作品であり、初期の代表作の一つと言えるので、ファンなら必読だと思います。

 

 

シャドウ (創元推理文庫)

シャドウ (創元推理文庫)

  • 作者:道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/01/01
  • メディア: Kindle版