思考するガム

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『密室蒐集家』大山誠一郎/紹介と感想 ハズレなしの傑作短編集

密室蒐集家 (文春文庫)

傑作。「本格ミステリ」「密室」というワードに反応してしまう人であれば必読でしょう。短編集で密室縛りなのにハズレなしという、ちょっとあり得ないクオリティの作品です。ネタバレは控えます。

 

 

 

作品紹介

鍵のかかった教室から消え失せた射殺犯、警察監視下の家で発見された男女の死体、誰もいない部屋から落下する女。名探偵・密室蒐集家の鮮やかな論理が密室の扉を開く。これぞ本格ミステリの醍醐味!物理トリック、心理トリック、二度読み必至の大技…あの手この手で読者をだます本格ミステリ大賞受賞作。(Amazon引用)

 

 

 高クオリティのパズル

「密室といえばハウダニットだよねぇ、大掛かりな物理トリックや最新技術が使われたトリック最高っしょ!」という浅はかな考えを根本から覆す逸品揃いでした。
謎解きの発端となるのがメインである密室と微妙にズレたところに置かれていたり、密室構築に偶然性さえも取り込んでいたりするところに一筋縄ではいかない面白さがありました。なによりこの作品は「どうやって密室を構築したのか」という部分以上に、「どうして密室なんてものが作られたのか」の解明部分に力が入れられており、「密室トリックは面白いけど犯人は何故わざわざこんなことをしたの?トリックを使うことでむしろ自分の首閉めてるじゃん」という低レベルな作品群とは出来が違います。

最初の一編『柳の園』からそのクオリティの高さに感嘆しました。学校での銃殺事件を扱った作品ですが、密室そのものに囚われていると、事件の全体像を把握することは不可能になります。登場人物の心理にフォーカスした謎解きが絶品でした。

『少年と少女の密室』は刑事の監視下の中、二人の子供が死体となって発見される話。難度の高さから可能性は限られるのですが、しっかりとハウの部分で驚かせてくれるし、密室トリック以外の部分でもサプライズがあり非常によくできています。

『死者はなぜ落ちる』は二番目に好きな短編で、カンの良い読者であれば、冒頭のくだりで有名な古典作品を下敷きにしていることがわかるでしょう。しかしこの作品は、その下敷きにした作品をうまくアレンジしています。この短編に限らずですが、密室トリックの構造で驚かせるというより、事件の全体像(思ってもみなかった構図)でサプライズをあたえる作品ばかりが収録されていることがわかります。

『理由ありの密室』は個人的にオールタイムベスト級の傑作で、密室の構築方法そのものは拍子抜けですが、「なぜ犯人は密室を構築したのか?」の理由が絶品。探偵役の密室講義も面白く、謎解きは精密でした。この作品も密室そのものに価値を見出していると、事件の本質が見えないようになっているのが上手いです。

『佳也子の屋根に雪ふりつむ』は定番の雪密室。大味感と某作品を知っているとトリックそのものがすぐに見抜けてしまう難はあるものの、やはりこの作品も元ネタをうまくアレンジしてあると思います。

 

 

偶然性と探偵

今作は本格ミステリ大賞を獲ったものの、「偶然性」が入り込んでいる点で一部読者から批判されています。自分は全面擁護派です。
たとえば島田荘司の本格ミステリには「悪魔的な偶然」が多用されています。しかし「この作品内ではありうることだ」と説得力を持たせることに成功しているので、高く評価され続けているのでしょう。本作も同じように成功していると思いました。作者は「悪魔的な偶然性」が入り込んでいることに自覚的で、それを気にさせないよう工夫をしているのです。
どこで工夫をしているのかといえば探偵役でしょう。本作は様々な時代での事件を扱っていますが、登場する密室蒐集家はみな同一人物で、あきらかに人間ではありません。超自然的な存在と言っていいでしょう。彼の存在が、物語全体の「フィクション度」を高めており、事件に「悪魔的な偶然」が入り込む余地をあたえていると思います。偶然さえも手中に治めようとする福本漫画の『アカギ』みたいなもんですね(伝わる人には伝わると思う)。

 

 

まとめ


とにかく読んでないなら読めー!と叫びたくなる傑作短編集でした。まぁ正直、パズルに徹したストイックさは好みが分かれるところでしょうが、上記でも書いたように「本格ミステリ」「密室」に反応してしまう変態読者であれば、絶対に読んで損はありません。オススメ!

 

 

密室蒐集家 (文春文庫)

密室蒐集家 (文春文庫)

  • 作者:大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 文庫