思考するガム

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『秋期限定栗きんとん事件』米澤穂信/紹介と感想 連続放火事件と操りゲーム

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

小市民シリーズ第三弾にして、現時点での私的シリーズ最高傑作。
究極のキャラミスだと思います。
「キャラミス」と呼ばれている作品はたくさんありますが、「キャラクターの立ちっぷり」と「ミステリ要素」の二つが噛み合うことで完成度が高まっている作品ばかりかと言うと、そういうこともなく、キャラクタ―は立っているけれどミステリ部分が弱いもの、またはキャラクターの個性がミステリの構成に関わっていないものばかりなのが実状です。つまり登場人物の個性で釣っているだけの作品が大半なんですね。
その点で栗きんとん事件は、「このキャラクターでしか成立しない仕掛け・プロット・謎解き」になっていて、他のキャラミスとは明らかに一線を画しています。
今回はある程度ネタバレを交えながら、このシリーズ特有のゲーム性に言及しつつ感想を書いていこうと思います。未読の方は注意してくださいね。

 

 

作品紹介 


あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…シリーズ第三弾。

 

特殊なゲーム性とテーマ(ネタバレあり)

いちごタルト事件の時は、まだよくある『日常の謎』に収まっていたシリーズですが、トロピカルパフェ事件から主人公とヒロインによる「操りと読みあいのゲーム」に変貌します。

お互いの特殊性を知っているがゆえに、事件を通して、「操りと読み合いのゲーム」が成立しているのが面白いところです。メインの事件を解決して終わりとするのではなく、お互いが事件の中でどのような役割を果たしていたのか、最後に答え合わせをするのが普通のミステリにはない感覚でしょう。


発生している事件の大きさに対して、二人の事件に対する感覚はいつも軽いです。二人にとって事件は自分の才能を活かしきれる存在証明のための道具に過ぎないのでしょう。だから終盤、二人は神的な視点から物語全体(事件全体)を俯瞰して見下ろし、「あの時はさ」「あそこでミスしちゃって」など将棋の感想戦のような感覚で語れるのだと思います。しかし事件の中では、心を痛めた者や人生を台無しにされた者がいるので、何とも言えないブラックさが漂うのです(二人はそういう連中をゲームの駒としか見ていません)。

小市民シリーズでは「上から目線」な2人を、作者は突き放したタッチで描いています。トロピカルパフェ事件の結末がまさしくそうでした。「なんだこの主人公ムカつくなぁ」「ヒロイン気持ち悪いなぁ」とならないのは主人公たちの自意識のおかしみを強調して描き、格好いいヒーローのようには見せず甘やかしていないからでしょう。こいつらはこいつらで生きていくの大変そうだな、と同情の念を抱けるように描いているのです。

栗きんとん事件では前作以上に「操りと読みあいのゲーム」の面白さが推し進められ、よりわかりやすくなっているのが印象的です。小鳩くんと小山内さんのゲームに巻き込まれる新聞部の瓜野くんの視点が入ることにより、ゲームの残酷性まで浮き彫りになっています。今までの話では、ゲームに巻き込まれてしまう他者の気持ちは描かれていませんでしたが、今回は大部分で描かれているのです。しかも駒としての役割が無くなった瞬間、ゲーム盤から問答無用ではじき出されるあたり容赦がありません。

瓜野くんは二人のゲームに巻き込まれた存在、というふうに上記では書きましたが、正確に言うとちょっと違いますね。そこが栗きんとん事件の面白いところです。瓜野くんとその友人が始めた「放火魔探しゲーム」を、途中から二人が乗っ取って自分たちのゲームに塗り替えてしまっていたのです。そのことは謎解きパートに入ってからわかるのですが、明かされた時は「そうきたか!」と唸らされました。
この構図が見えづらくなっているのは前作での小山内さんの行動を我々読者が知っているからでしょう。最初から黒幕としてゲームを支配していたんだろうと、どうしても考えてしまいますが、その考えを逆手に取っているわけですね。小山内さんがゲームに介入し始めたのは上巻のラストからでした。
そして最後の一撃の「動機」が強烈。
普通なら「そんなことで…」と思いますが、しかし我々読者は彼女のパーソナリティーを知っているわけで、納得せざるを得ないのです。
キャラクターの個性を活かし切った実に見事なラストだと思います。

米澤作品すべてに共通するテーマ性も健在です。
「自分の才能の限界」「自分はこうでしか生きられない」ということを痛感する物語になっています。あたりまえですが、なりたいものとなれるものの間には大きな壁があります。瓜野くんは自分の才能の限界を自覚し、これからは小市民として生きていくんじゃないでしょうか。小鳩くん達も小市民でいることの限界を感じ、そもそも「みんなと同じように小市民になろう」という考え自体が周囲を馬鹿にしていることに気づいたはずです。
ビターな成長物語としての側面もあり、様々な方向から読み取って楽しめる作品だと思いました。

 

まとめ

今年の短編集が楽しみで仕方ありません。何よりも優先して読もうと思います。未読の方はぜひシリーズをチェックしてみてください。オススメです!

 

 

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/02/28
  • メディア: 文庫
 

 

 

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

  • 作者:米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/03/05
  • メディア: 文庫