思考するガム

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『幻の彼女』酒本歩/紹介と感想 消えた3人の元カノの行方

幻の彼女

ばらのまち福山ミステリー文学賞といえば、島田荘司先生が選考委員をされていることで有名ですが、今作はその受賞作です。驚きの奇想を短くまとめ切った佳作だと思います。正直泣かされてしまいましたよ笑

 

 

 

作品紹介

ドッグシッターの風太に一通の喪中はがきが届く。以前交際していた美咲の訃報だった。まだ32歳なのにと驚く風太。ほかの別れた恋人、蘭、エミリのことも思い出し連絡を取ろうとするが、消息がつかめない。彼女たちの友人、住んでいた家、通っていた学校…三人はまるで存在しなかったかのように、一切の痕跡が消えてしまっていた。友人の雪枝、裕一郎とともに謎を追う風太。辿り着いた驚愕の真相とは…前代未聞、必涙のラスト!!第11回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。(「BOOK」データベース引用)

 

消える三人の女性たち

以前交際していた女性の訃報を知った主人公が、ほかの元カノたちと連絡を取ろうとするが誰一人として消息をつかめず、不安を解消するため仲のいい女性と真相を探っていくのだが…という話。消えた女性たちの痕跡が不自然に消えていることもあり、解説で島田荘司がおっしゃられている通り、「政府がらみの陰謀」「暗躍する秘密結社」というありがちな真相のどちらかにしか思えてならないわけですが、そこはご安心を(笑)。シンプルな謎に対して、なかなかの奇想で解答を示してくれます。

正直なことをいうと、伏線が親切(というかあきらかに浮いていた)なこともあり、ネタはかなり早い段階で割れていたんですが、真相をあの人に語らせることによる催涙効果が半端ないわけで、わかっていてもダメでした。喫茶店で読んでたんですけど、目の前のテーブル席の人にぎょっとした顔を向けられましたよ。

全体的にさらっとした印象で初読のときは勿体なさを感じたんですが、むしろこのくらいの塩梅がいいのかなと今では思います。科学的な部分を掘り下げ過ぎると、また別物になりそうですからね。いい意味で、軽快だと思います。男勝りっぽいヒロインの造形も嫌いではありません。とはいえ、ちょっと気になったところもあったので以下その点について。

 

見せ方の平凡さ

メインプロットは元カノの消息を追うというもので、そこに現在進行形での恋の予感や職場でのあれこれが絡むわけですが、話の進行自体は(ちょっと語弊のある言い方かもしれませんが)普通です。文章が平坦で読みやすい反面、ちょっと後半への引っ張りが足らない気がしました。読んでいて正直、元カノたちの安否を確かめたいという動機に切実なものを感じなかったことが原因かもしれません。ペットショップとの対立には熱を感じたんですけどね。真相のぶっ飛び具合を際立たせるため、あえてプロットを平板にしたのかな、と好意的に受け取ることも可能ですが、個人的にこのネタであれば、もっと面白い謎に仕上げることもできたんじゃないかな、と。それこそ島田荘司ばりの幻想味あふれる謎が提示できていたかもしれません。完全に無い物ねだりのワガママでしかないわけですが笑

そういうワガママ抜きにしても、ちょっと気になるところはありました(女子校などで情報が割と簡単に入手できてしまう件とか、まだ事件性が確認されてない頃から「実はあいつが犯人なんじゃないか」と根拠なく言い始める登場人物たちなど)。短くまとめ切るために、話運びに多少の無理が生じている気がします。

 

とはいえ、上記で書いた通り、真相開示の部分では涙、涙、涙でした。そこの演出が完璧なので、これはこれでいいだろうという気持ちに持っていかれましたよ笑

まいりました、と言わざるを得ません。

 

まとめ

メインの奇想自体もなかなか面白いと思いますし、泣けるミステリを所望している方にはマストな一冊と言えるのではないでしょうか。オススメです。

 

 

 

 

 

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