思考するガム

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『刀と傘』伊吹亜門/紹介と感想 幕末を生きる人間たちの心の揺らぎを捉えた傑作ミステリ短編集

刀と傘 明治京洛推理帖 (ミステリ・フロンティア)

本格ミステリの魅力とはなんでしょうか。どんでん返し? 物理トリック? 高度なロジック?

ええ、人によって好みはわかれるでしょうね。

僕はホワイダニットこそ現代本格の最も重要な要素だと思っています。なので『刀と傘』は、大変面白く読むことができました。結論を先に言いますが、傑作でしょう。

 

 

 

 

作品紹介

死刑執行当日、なぜ囚人は毒殺されたのか?
明治の世に京都で生きる人々を活写した連作時代本格推理、堂々登場。

慶応三年、新政府と旧幕府の対立に揺れる幕末の京都で、若き尾張藩士・鹿野師光は一人の男と邂逅する。名は江藤新平――後に初代司法卿となり、近代日本の司法制度の礎を築く人物である。二人の前には、時代の転換点ゆえに起きる事件が次々に待ち受ける。維新志士の怪死、密室状況で発見される刺殺体、処刑直前に毒殺された囚人――動乱期の陰で生まれた不可解な謎から論理の糸が手繰り寄せる、名もなき人々の悲哀を活写した五つの物語。破格の評価をもって迎えられた第十二回ミステリーズ! 新人賞受賞作「監獄舎の殺人」に連なる時代本格推理、堂々登場。(Amazon引用)

 

 

 

幕末を舞台にした本格ミステリ

日本の法制度を整えた、江藤新平という実在の人物を探偵役にした連作ミステリ短編集です。彼についての知識がなくとも問題無く楽しめるでしょう。

彼と相棒となるのは尾張藩士の鹿野師光という男です。最初こそワトソンくん的な立場に思われましたが、実は彼もまた、今作の探偵役の一人なのです。二人の探偵役がいるわけですね。この二人の関係性が、時代の移り変わりとともに変化し、サスペンスを生んでいくわけですが、単純にバディーモノとしての楽しさもありました。

今作の最たる特徴は、この時代だからこそ成立する特殊な動機でしょう。プロットの立て方、伏線の配置の仕方、謎解きの手順、すべての技巧がほぼ完璧と言えるので、登場人物の胸の内が語られる場面では心底驚かされ、ぐっとさせられました。

以下各エピソードの簡単な感想

 

佐賀から来た男

この短編を読み終えた瞬間から「傑作きたな」と確信してましたよ、ええ。

犯人が限定されている空間での殺人が発生。江藤新平は自分の名を上げるために、鹿野師光を引き連れて犯人探しをすることになるのですが、最後に至った真相はなかなか意外なものでした。この短編で強烈に印象に残るのは、この事件を生み出した犯人たちの特殊な心理でしょう。この時代のこの舞台立てでしか成立しないものになっていて、見事というほかありません。

 

弾正台切腹事件

密室殺人を扱った話。連作の中ではやや落ちる印象ですが、トリックが明かされてからのインパクトは大きいです。この短編、後々の展開の衝撃を高めるための布石として置かれた感があり、作者のストーリーテラーとしての資質がうかがえますね。

 

監獄舎の殺人

作者のデビュー作。

死刑間際の罪人が毒殺されるという話。あきらかに法月倫太郎の「死刑囚パズル」を念頭に置いて作られていますね。二人は毒殺の理由をあれこれ考えますが、決め手がありません。というか、犯人にしやすい人物が一人いるので、そいつを犯人にしてしまおう、と安易な方向に流れるのですが……。

犯人の目的が明かされてからの一捻りが秀逸でした。単体の短編としての出来もいいのですが、この連作の中に置かれることで、さらに衝撃度が高くなっている点も見逃せません。

なんとも苦い後味を残します。

 

倒叙ミステリです。犯人のミスはわかりやすく描かれているのですが、科学捜査がない時代なので、決定的な証拠を掴めないまま話が進行します。決め手が不意に現れた時は唐突に思えたのですが、なるほどそういうことですか、と後から納得させられ、また作者の掌で弄ばれて悔しい次第。探偵役の強烈なパーソナリティが印象に残ります。

 

そして、佐賀の乱

ある意味、ミステリとしては1番シンプルな作りと言えるかもしれません。

ネタバレになるのであまり本質的なことはいえないのですが、ラスト、時代の流れの無慈悲さを痛感しました。人ってなんと無力なのか。

 

まとめ

本格ミステリ大賞も納得の出来です。大賞作品にハズレなしの法則がまた守られてしまいましたね。歴史ファン、時代小説ファン、それから男同士の歪な関係性に「隠微な尊み」を感じてしまう紳士淑女にもオススメです。

 

 

 

刀と傘 明治京洛推理帖 (ミステリ・フロンティア)

刀と傘 明治京洛推理帖 (ミステリ・フロンティア)