思考するガム

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『夏期限定トロピカルパフェ事件』米澤穂信/紹介と感想 日常を飛び越えた傑作ミステリ

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

小市民シリーズ第二弾。このシリーズの面白さである主人公たちの特異性を極限まで活かしきり、傑作へと昇格させた作品です。日常の謎というフォーマットから逸脱してしまいましたが、そもそも作者はちょっと変わった名探偵小説を書こうとしていたわけで、春期からそのスタンスは一貫していました。何の問題もないでしょう。むしろ「名探偵」の特異性を描くという意味では、あきらかに一作目より踏み込んでいて、面白く感じられます。

 

 

 

 

作品紹介

小市民を目指す小鳩君の、苦悩と甘いものと推理の日々

小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。さかしらに探偵役を務めるなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を! 恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある小鳩君と小佐内さんは、今日も二人で清く慎ましい小市民を目指す。そんな彼らの、この夏の運命を左右するのは〈小佐内スイーツセレクション・夏〉!? 大好評『春期限定いちごタルト事件』に続く待望のシリーズ第2弾!(Amazon引用)

 

 

本格ミステリのギミックで遊ぶ

序盤のエピソードはシリーズ一作目と同じく、日常のささいな謎を本格ミステリ的な技法で描いたものになっています。小鳩くんが犯人役をする最初の一編から、非常によくできています。倒叙ミステリならではの駆け引き、秀逸な決め手と、欠点がありません。見せ方一つで驚きをあたえてくれるのが日常の謎のいいところですね。

続く短編は暗号解読もの。独立した短編としてはまぁまぁな印象ですが、終盤の展開につながる大事なエピソードなので油断しないように。

 

日常から非日常へ

ネタバレになるので詳しくは書けないのですが、学園日常の謎モノから大きく飛躍した展開を迎えます。予備知識なしで読んだら驚くのではないでしょうか。緊迫感のある展開により、小鳩くんの名探偵としての資質が問われます。小鳩くんの活躍もあり事件は一応の解決を見せるのですが、何やら不穏な空気に包まれ……。ラスト、ある人物と小鳩くんは一対一で対決することになります。ここで小鳩くんが繰り出す推理は、至極まっとうなもの。なるほど、と唸らされます。

しかしこの作品の凄まじいところは、安易な着地を許さないところにあります。一度出した推理を、小鳩くん自身が引っ込め、さらに精度の高い推理を提示していくのです(敵はRPGのラスボス並みの耐久性なのでなかなか倒せません)。それを繰り返していった先にあるのは強烈な真相でした。米澤作品に通底して流れるテーマが一気に顔を出すのです。才気あふれているがゆえの傲慢さに対する作者の厳しい眼差しを感じました。

 

まとめ

傑作でしょう。このシリーズの恐ろしいところは続編がさらに本作の上をいく傑作になっているところ。来年短編集が出るらしいので、楽しみに待ちたいと思います。超おすすめ。

 

 

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)