思考するガム

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『リラ荘殺人事件』鮎川哲也/紹介と感想 新本格に連なる殺人劇

リラ荘殺人事件 (角川文庫)

山荘での連続殺人を描いた鮎川先生の作品。近年、好事家たちから再評価されていて、もちろん面白いんですが一点気になる点があり、手放しには絶賛できません。それについては後述します。

 

 

 作品紹介

 

埼玉県と長野県の境近く、かつては個人の別荘であった寮「リラ荘」を、日本芸術大学の学生七名が訪れた。その夜、橘と紗絽女の婚約発表に、学生たちは心のざわめきを抑えられなかった。翌日、リラ荘そばの崖下で屍体が発見される。横には死を意味する札、スペードのAが。そしてスペードの2が郵便受けから見つかり、第二の殺人が起こる。事件は連続殺人の様相を呈し、第三、第四の殺人が―。本格ミステリの金子塔を復刊!(アマゾン引用)

 

 

 

トランプ殺人

山荘で謎の殺人者により次々と学生が殺されていく王道の本格ミステリですが、序盤から普通に警察が介入するあたり異質な手触り。警察の指示で缶詰状態となった学生たちの間には、張り詰めるような緊張感が続きます。クローズドサークルと言えるようで言えない作品ですね。なんとなくカーの某作が頭をよぎりました。

 

なんと言ってもこの作品の素晴らしいところは心理トリックでしょう。今でこそ目新しくはないですが、当時は新鮮だったのではないでしょうか。トランプの使い方がスマートです。

名探偵星影龍三の推理も素晴らしい。事件関係者の心理を丁寧に拾っていき、事件全体の構造を暴き出していきます。本格ミステリとして申し分ないクオリティでしょう。

しかし…

 

本格ミステリにおける警察

本格に出る警察は探偵の引き立て役というのは本格ファン共通の認識でしょう。僕も警察が無能であることに目くじらは基本立てません。

ただ、度を越して無能な場合はやはり一言言いたくなります。というのも、警察が職務怠慢レベルの無能揃いであることを前提としたうえで、初めてパズルとして成立する作品はいかがなものかと思うからです。警察に限らずですが、度を越して無能なキャラクターありきで作られたミステリやサスペンスは、あまり上等なものに感じられません。

今作は警察の支配下の中で次々と殺人が行われるわけですが(その時点で無能ですがそこは本格ミステリなのでいいや、とまだ流せる)、事件を指揮している人間が責任を取らされる、または失敗を嘆くような展開やエピソードがないので、物語としてそれでいいのか、と気になります(カーの某作では指揮していた刑事が責任取らされて辞めてました)。

警察が無能であることでギリギリ成立してる本格ミステリになっている点はやはりマイナスでしょう。このネタであればもっとコンパクトにまとめられた気がします。

 

まとめ

この作品が再評価されたのは新本格の作家達がよく言及しているからだと思います。気になる点は多いものの、本格が死につつあった当時にこれほどストレートな本格ミステリ長編を描いたアユテツ先生の労力には頭が下がります。読んで損はない作品でしょう。

 

 

リラ荘殺人事件 (角川文庫)

リラ荘殺人事件 (角川文庫)