思考するガム

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『悪いうさぎ』若竹七海/紹介と感想 世界一不運な女探偵の過酷な一週間

悪いうさぎ (文春文庫)

葉村晶シリーズ初長編。可愛らしい表紙とは対照的に内容は重く暗いので注意が必要です。とはいえ、シニカルで軽快な語り口は面白いですし、抜群のテンポ感で読ませます。

 

 

 

 

 

作品紹介

女探偵・葉村晶(あきら)は、家出中の女子高校生ミチルを連れ戻す仕事を請け負う。妨害にあい、おまけに刺されてひと月の安静をやむなく過ごした矢先、今度はミチルの友人・美和を探すことに。やがて見えてくる高校生たちの危うい生態──親への猛烈な不信、ピュアな感覚と刃物のような残酷さ──その秘めた心にゆっくり近づく晶。打ち解けては反発するミチル、ナイスなゲイの大家・光浦たちとともに行方不明の同級生を追う。好評の葉村晶シリーズ、待望の長篇!

 

欲望まみれの事件に女探偵が挑む

葉村が刃物で刺されるところから物語はスタートします。怪我が回復すると、その事件で知り合った女子高生の友人を探す展開に。単なる家出少女探しの簡単な仕事に思われましたが、やがて葉村は壮大な事件の渦中に巻き込まれていくのです。単なる人探しから、大きな事件に巻き込まれるのはハードボイルドの王道で良いですよね。

イヤ感のある登場人物たちが己の欲望を満たそうとする中で、葉村は己の信念に従い、真実までの道のりを突き進みます。その過程で様々な痛みを覚えるわけですが、それでも事件に食らいつこうとする彼女の姿はやはり格好いいです。なぜモテないのか。(いや、そういう性格だからモテないのか)

 

個人的には、友人とのエピソードが胸を抉られました。葉村がわかりやすく感情的になる珍しいシーンなので必見。

 

若竹作品すべてに共通するのは、日常の中にさりげなく盛られた毒でしょう。湊かなえ作品や真梨幸子作品のようなわかりやすい毒とは違い、後から「あ、よく考えればあのシーン全然笑えないじゃん!」「ただの日常の会話だと思ってたのに胸糞悪!」というような遅効性の毒になっていて、読者によっては毒が仕込まれていることに気づかないまま読み終える人もいるのではないでしょうか。表面的にはコミカルに描かれているような場面でも、そういう毒をさりげなく(あるいは知的に)盛り込んでいるので、ある程度の察しの良さと読解力がないと真の意味で若竹作品は楽しむことができないかもしれません。

 

本作で言えば女子高生ミチルの両親と会うくだり。どういうわけか母親の方が葉村を男のように扱っていて笑えるんですが、後々なぜ葉村のことを男性として扱っていたのか、その理由が明かになったところで鳥肌がブワーッと立ちました。笑える場面が実は笑えるものではなかった、というのは若竹作品では定番の流れですが、「日常の中の悪意を描く」という作家性が顕著に出ている名シーンになっていたと思います。

 

 

最後に示される事件の構図

真相は賛否わかれるようで、推理作家協会賞の選考委員たちからはあまり評価されていませんでした。思うに、舞台の問題ではないでしょうか。海外が舞台であれば受け入れやすかったと思います。

ただこういう事件が現代に絶対ないかと問われたら、わからないですよね。人間の愚かさや残酷さは太古の昔から変わっていませんから。

ちなみに僕は海外ドラマ、海外の犯罪モノが好きなので普通にダークな真相を受け入れられました。このオチ、最高です。

 

まとめ

面白かったです!僕はこの作品、圧倒的に賛。

葉村晶の活躍をもっと見たいと思いました。オススメ!

 

悪いうさぎ (文春文庫)

悪いうさぎ (文春文庫)