思考するガム

ミステリ、漫画、時々映画の感想ブログです。自分の好きなものを中心に扱います。

『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信/紹介と感想 コミカルで楽しい連作短編集

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

小市民シリーズ第一弾。最近再読したんですが、いい意味で軽いテイストの本作、とても面白かったです。ただこのシリーズ、2作目、3作目から真の魅力や面白さを露わにするので、一作目はキャラクターや世界観を把握する入門書的な読み方をした方がいいかもしれませんね。もちろん、『美味しいココアの作り方』など、本格ミステリとして優れた作品もあるので、斜め読みは厳禁です。

 

 

 

 

作品紹介

小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。

 

ライトで楽しい学園ミステリ

名探偵らしい振る舞いを辞めて小市民になろうとする高校一年生の小鳩くんが主人公です。彼は小市民を目指すのですが、日常の中で不思議に遭遇し、結局謎解きをしてしまうのです。

小鳩くんの特異性がミステリを面白い方向へと向かわせるので、キャラミスとしての楽しさもあります。

ヒロインの小佐内さんは小鳩君以上に強烈なパーソナリティの持ち主で、人によってはドン引きするかもしれません笑

ちなみに僕はこの2人が大好きです。

リアルでは絶対に友達になりたくないタイプですが…苦笑

 

探偵という行為の傲慢性

ライトで楽しいと書きましたが、ダークな作家性も色濃く反映されています。

米澤穂信は「他者の問題に対する安易な介入への冷めた視線」「才能や自分の限界に自覚的、または無自覚的なことで発生する悲喜劇」を描く作家だと自分は考えています。

シリーズを重ねるにつれ、その色は濃くなり、3作目では、いよいよ行くところまで行った感があります。

随所に感じられる名探偵小説に対する批評性はバークリーの作品群を思わせますね。事実、バークリーの作品にインスパイアされて小市民シリーズを書かれたそうです。

過去の名探偵が登場する名作たちを思い出しながら読むと、より楽しめるのではないでしょうか。

 

 

おいしいココアの作り方

日常の謎としてよく練られた短編ばかりで素晴らしいです。その中でも特筆すべきは『おいしいココアの作り方』でしょう。

容器を使わずにどうやって牛乳を温めたのかというシンプルな謎ですが、仮説を積み重ねるほどに、不可解性と不可能性が増していくのが秀逸。

日常の謎はホワイダニットを基本としているので、直感的に解かれるものが多いんですが、今作はロジック重視の短編となっていて、「日常の謎でもロジックの積み重ねで解かれる作品を書けるんだ…!」と初読のときには唸らされました。キャラクターの個性がしっかりと謎と結びついているのも評価ポイントです。

 

まとめ

この短編集は、まだジャブといったところ。強烈なパンチを繰り出してくるのは次巻以降となります。とはいえ、上記で書いた通り、この作品も愉快な日常の謎作品に仕上がっています。無論オススメ。

 

 

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)