思考するガム

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『葬式組曲』天祢涼/紹介と感想 葬式が淘汰されつつある日本が舞台の傑作ミステリ

葬式組曲 (双葉文庫)

葬儀をせず、そのまま遺体を燃やす直葬が主流となった日本を舞台にした、傑作ミステリ短編集です。本格ミステリの手法を使い、巧みに人間ドラマを描いています。正直、いくつかの短編では驚きと共に泣かされてしまいました笑

結論から言うと超オススメ

以下ネタバレはありません。

 

 

  

作品紹介

老舗酒造の杜氏である父親と衝突して、実家を飛び出した次男。七年後、父親の訃報にやむなく戻ると、「喪主はお前に」と不可解な遺言が残されていた。なぜ父親は、跡を継ぐ長男を差し置いて、次男に式を任せたのか?(「父の葬式」)葬儀を省く「直葬」が主流になった国で、死者をめぐる「謎」に戸惑う遺族たち。―女社長・紫苑が率いる北条葬儀社の面々は、式を滞りなく進められるのか。気鋭の放つ傑作連作ミステリー。(Amazon引用)

 

遺族と死者のミステリー

この作品でまず目を引くのは、日本から葬式が無くなりつつあるという設定でしょう。葬式を必要としていない、葬式をあげるとむしろ白い目でみられるような世界で、なぜ人は葬式をあげるのか。ある意味、葬式そのものの存在を問うような作品になっています。

謎を解決に導くのは葬儀屋の面々。実に鮮やかに事態を丸く収めてみせます。

作者はもともとラノベ風味のミステリを書いていましたが、「大人な作品も書ける」と本作を書き上げたようです。個人的にはこういう作風の方が好みで、めちゃくちゃ面白く、素直に傑作だと思いました。本格ミステリ連作短編集の、一つの理想系と言えるのではないでしょうか。本格部分がしっかりしているだけでなく、人間ドラマ部分も非常によく出来ていました。

 

以下各編の簡単な感想。

 

 

父の葬式

家業を継いだ次男ではなく家を出た長男が、なぜか故人から葬式の喪主に選ばれます。親族から冷たい視線を向けられる中、長男は父親の真意を考えることになりますが、最後に示される構図は、なかなか意外なものでした。強く印象に残る最後の独白は必見です。

 

祖母の葬式

祖母の火葬に難色を示す孫娘。火葬を受け入れる代わりに自ら作った特製の棺を使うことを要望します。

伏線の貼り方が秀逸でした。最後の、登場人物の立場が反転するラストも印象に残ります。

 

息子の葬式

葬式をあげることを望む母親と政治的な理由で葬式をあげられない父親。2人の対立の最中、遺体が消失します。

直葬係の男の視点で物語はつづられるのですが、謎が解かれた後、男の物語にシフトし、予想もしなかったところから胸を打つラストに雪崩れ込みます。本作から一編選ぶならこれでしょう

 

妻の葬式

死者の声が聞こえる、というシンプルな謎が扱われた一編。葬式という舞台装置が巧みに扱われています。こちらも伏線の貼り方が上手い

 

葬儀屋の葬式

すべてをひっくり返す!という作者の執念を感じさせる最後の短編。先の読めない展開、ひっくり返り続ける構図、ラストのなんとも言えないオチ。とんでもない破壊力です。

 

まとめ

最後の最後で、すべてをひっくり返してしまう展開に驚き以上に困惑を覚える向きもあるかもしれません。しかしサプライズ好きの本格ミステリ読者なら問題ないでしょう。人間ドラマと本格が両立した文句なしの傑作です。

上記でも述べたように、超オススメ。

 

 

 

葬式組曲 (双葉文庫)

葬式組曲 (双葉文庫)