思考するガム

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『空中ブランコ』奥田英朗/シリーズの紹介と感想 色白デブのトンデモ精神科医が患者そっちのけで遊び倒す

空中ブランコ (文春文庫)

「何か面白い小説ない?」と訊かれたら、僕はこれを差し出すようにしています。

第131回(平成16年度上半期) 直木賞受賞作です。

 

 

 

作品紹介

伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?(Amazon内容紹介引用)

 

シリーズ2作目です。1話完結の短編集なので、どこから読んでも問題ないでしょう。個人的には、この『空中ブランコ』から読むことを強くオススメします。

なぜかと言えば、シリーズの中で屈指の面白さを誇っているからです。

 

伊良部とは?

デブ、色白、不衛生、ロリコン、マザコン、オタク、お調子者、馬鹿、スケベ、親の七光り。属性を並べてみると良いところが1つもないように見える男です。

そんな彼のもとには様々な症状を持った患者たちが集います(飛べなくなった空中ブランコ乗り、先端恐怖症のやくざ、文字を書けなくなった若手実業家など)。

見た目は最悪なうえに言動は破天荒。そんな伊良部のことを、彼らは最初信用しません。悩みを話しても、鼻をほじりながら「ふーん」とか言うような奴ですから当然でしょう。

しかし、いつの間にか患者たちは伊良部なしでは生活できないようになっていくのです。

 

『空中ブランコ』の魅力

伊良部のもとに集うのは珍しい業界の患者たちです。伊良部は精神年齢が五歳程度で止まっているので、珍しいものにはウキウキで飛びつきます。

空中ブランコ乗りが来たら「いますぐサーカスに行きたい!」とせがみ

やくざが来たら「河原でピストル撃たせてよ!」とせっつき

プロ野球選手が来たら「いますぐキャッチボールしようよ!」と中庭に連れ出そうとします。

三十代後半のおっさんが無邪気な少年の振る舞いをするのです。最初冗談だと思うのですが、本当に職場にやってくるので患者たちは「マジかこいつ…」と茫然とします。伊良部は患者を利用して自分が遊ぶことばかり考える男なのです。

 

伊良部は人目を気にしません。自由奔放に生き、失敗を恐れないのです。悩みとは無縁の人生なのでしょうね。そんな伊良部と接して、患者たちは幸福になるためのロジックを発見していくのです。

 

患者から見た伊良部

患者視点で話が進行します。彼らは伊良部をこう捉えています。

 

「乳児が蛇を恐れないのは、勇気があるからではなく、それが何か知らないからだ。伊良部もきっと同じだ。何も考えていないのだ」(空中ブランコより)

 

「やくざの看板は、怖がらない相手にはまったくの無力なのだ。アザラシに凄んでも無駄なように」(ハリネズミより)

 

「普通の医師だったら、自分はもっと格好つけていた。弱さを吐露することはなかった。伊良部には、秘密を知られても気にならないのだ」(ホットコーヒーより)

 

「今となっては、伊良部そのものが、自分にとっての精神安定剤だ」(オーナーより)

 

「この男は、人に好かれたいとか嫌われたいとか思っていない(中略)~伊良部の無邪気さがうらやましかった。それはもしかすると、いまの世の中ではもっとも強い武器のように思えた。」(フレンズより)

 

伊良部の生き方は日本人的ではないかもしれません。しかし、伊良部から見習うべき点は多いのではないでしょうか。

 

まとめ

笑えるだけでなく、癒しと勇気をあたえてくれる作品です。表題作の『空中ブランコ』が特に好きですねぇ。一番笑ったのは『叔父のヅラ』でした。直木賞受賞と聴くと重厚な作品を連想してしまいますが、空中ブランコは誰もが楽しめる娯楽エンタメとなっています。多くの人にオススメしたい一冊です。

 

 

 

イン・ザ・プール (文春文庫)

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シリーズ一作目 

 

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 シリーズ二作目。直木賞受賞。

 

 

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 シリーズ三作目