新装版が一気にリリースされました。ファンとして嬉しいですね。ネタバレなしの紹介・感想です。
作品紹介
警察の権威が地に落ち、探偵士が捜査の実権を握ることになったパラレル英国を舞台にした本格ミステリ。主役をつとめるのは髪を七色に染めたキッド・ピストルズ! キッド・ピストルズの推理がさえわたる短編集第一弾!
本格ミステリというジャンルは一種のファンタジーです。現実の基準に当てはめていくとおかしなところが多い。しかし、このシリーズではパラレル英国を舞台にしたことにより、本格ミステリというジャンルのおかしみを最小限に抑えていると思いました。
それだけでなく、本格ミステリの批評精神が随所にみられるところも楽しいですね。
シリーズとしての特徴
探偵士が上位のものとして描かれているのに、謎解きをするのは刑事になります。捻じれた構造が目を惹きますね。
また、すべての作品で童謡殺人が扱われているのも面白いと思いました。独特の空気感を醸し出しています。
パンクが重要な役割を担っている点も見逃せません。キッド・ピストルズの推理は、既存の考えを破壊し再構築するというもの。パンクの魂と繋がっているように思えます。
以下特に気に入っている作品の感想になります。
「むしゃむしゃ、ごくごく」殺人事件
50年間引き籠っていた体重400ポンドの元女優が毒殺される。皿からは毒物が検出された。しかし、被害者の胃からは毒物が検出されなかった……。いったいなぜ?
感想
世界観の説明、特異な登場人物達。掴みはばっちりのエピソードです。
登場人物の思わぬ行動が予期せぬ事件の構造を作り出していた点が面白く感じられます。
曲がった犯罪
曲がった男と称される人物が芸術家の曲がったアトリエで、石膏で固められた状態で死体となり発見される。凶器の曲がったオブジェからは、曲がった硬貨が失われていた。「曲がった猫」を被害者に売った腰の曲がった老人も死体となり発見される。果たして犯人は誰なのか…。
感想
本書の白眉でしょう。
まず目を惹くのは、これでもかというほどの曲がった存在の数々です。独特の空気感を醸し出しています。
登場人物たちの心理、犯人と被害者の関係、芸術家と批評家の関係、凶器、真相。
これらすべてが捻じ曲がっていて驚かされます。
終盤の推理は圧巻の一言でした。自分の知識ではとてもカバーしきれない言葉の渦に呑み込まれてしまいましたよ。
それとこの決め手はやはり燃えますね。やられた! と思いました。生涯ベスト短編の一つです。傑作。
まとめ
『生ける屍の死』という大傑作を読んだことがある方はこちらも読んでみてはいかがでしょうか。絶対に後悔はしないはずです。もちろん、まだ「生ける屍の死」を読んでない方にもオススメです。
面白いシリーズですよ。

キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)
- 作者: 山口雅也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/09/11
- メディア: 文庫
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シリーズ一作目。今回紹介したものです。
新装版です。この機会に読んでみてはいかがでしょうか。日本ミステリー史に残る大傑作です。